寒いデータセンタは時代遅れ?

DC
Published: 2011-07-01

猛暑が続く今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。こんな時はオフィスではなくデータセンタで仕事をしたいですよね。ですが、マシン室に入った途端に上着を着ないと寒いようなデータセンタは、無駄の多いデータセンタです。そんなデータセンタの空調に関するエントリーです。

空調の目的とは

データセンタにおける空調の目的は、「装置内を最適な温度にする」事です。サーバやネットワーク機器は、安定稼働する温度が決まっています。例えば、HP Integrity BL860cの動作温度は+10℃~+35℃です。何もしなければデータセンタの室温は機器の排熱で上昇し、あっという間に動作温度を越えてしまいます。そこで空調を使い、装置内を最適な温度にします。

空調その1:気合い方式

室温の調整方法は色々あります。たとえば、企業のフロアに存在するマシン室のように、ただひたすらに空調機/送風機を動かして部屋を冷やす方式です。家のエアコンと同じです。技術やテクニックが関係ないなので気合い方式と呼んでいます。

この方式の最大の問題点は、部屋を冷やす事に大量の電力を使ってしまう事です。前述したとおり、空調の目的は、部屋を冷やす事ではなく「装置内を最適な温度にする」事です。このやり方では目的に対する無駄が多すぎます。

空調その2:床下送風方式

そこで考え出されたのが、床下からラック内に冷たい空気を直接送り込む方式です。ラック内に直接冷気を送り込むので、気合い型と比べると効率が良いです。

この方式で注意しないといけない点が、吸排気の向きです。何も考えず「ラックの向きは同じ方がいいよねー」くらいな勢いでラックを設置すると、下図の様に前列のブレードサーバの排気を、後列のブレードサーバが吸気する悲惨なエアフローが出来上がります。これではラック内に直接冷気を送り込んだ意味がありません。

ButFlow

空調その3:コールドアイル/ホットアイル方式

そこで考え出された方式が、コールドアイル/ホットアイル方式です。ラックを向かい合わせで設置する事によって、冷気を送り込む「コールドアイル」と機器の排熱が集まる「ホットアイル」を明示的に分ける方法です。

こうする事で、冷気を確実に機器に吸気させ、機器の排気が別の機器に吸気される状況を防ぎます。また冷気と排熱が混ざってしまう可能性を減らす事が出来ます。

ColdAisle-HotAisle

空調その4:コールドアイルチャンバー方式

コールドアイル/ホットアイル型を進化させたものが、コールドアイルチャンバー方式です。コールドアイル/ホットアイル方式の問題点は、機器に吸気されなかった冷気がラックの横や上に漏れてしまい、部屋自体を冷やす事に使われてしまう事です。

そこでコールドアイルを可能な限り密閉し、部屋に冷気が漏れないようにします。具体的には、通路の横にドアを設置し、上部に蓋をします。こうする事で、空調機の冷気が確実に機器に吸気されるようにします。

ColdAisle-Chamber.png

空調その5:ホットアイルチャンバー方式

ここまで紹介してきた方式には、一つの共通点があります。それは、大きな空調装置が必要な点です。これまでのお絵かきだと左右に大きな空調装置があります。冷気の利用方法は効率化されていますが、結局のところ集中管理された空調装置が冷気を送りだす点は同じです。

集中管理された空調装置を利用する場合、データセンタ設計時に冷風の送り方/熱気の回収方法を詳細に設計しなければなりません。また冷風が全てのラックに到達するまでに多少なりともロスが発生してしまいます。さらに、ラックが全て埋まっていない場合や所々使われていない場合に送風の無駄が生じます。

これらのコストを解消すべく登場したのがホットアイルチャンバー方式です。これは従来のように空調装置を集中管理するのではなく、ラックのそばで分散管理します。

まずは、コールドアイル/ホットアイル方式と同様にラックを整列させます。そしてコールドアイルチャンバーとは逆に、ホットアイルを密閉します。その際に、ラックの間に細長い縦長の空調装置を設置します。パチンコ屋の台間玉貸機みたいな感じです。ホットアイルが密閉されているので、サーバの排気は、部屋に広がることなくラック間の空調装置に吸気されます。そして冷却されコールドアイル側に送られます。この冷やしたての冷気を、機器が吸気します。

Hotaisle-Chamber.png

こうする事で大規模な空調装置は不要になります。装置の目の前に冷気が送られますから、ロス(部屋を冷やしちゃう)も減ります。また、ホットアイルが密閉されており部屋全体に熱が回る事がない為、部屋自体を冷やす必要もありません。送風する為の床下スペースを必要も事もありません。ケーブルを全て床上配線にすれば、必要なスペースは電源ケーブル用だけ済みます。

さらにこの方式は、PoDとの親和性が非常に高いです。PoDの1セットにホットアイルチャンバー設備を含める事で、PoDは配線だけでなく空調も考慮した完璧なモジュールとなります。

なお、チャンバー方式には一つだけ欠点があります。それは、密閉すれば密閉するほど消防法の縛りが厳しくなり、消火設備に対するコストが掛ってしまう事です。ここは密閉度を上げる事によるコスト削減と、消火設備を導入するコストを天秤に掛け、上手く折り合いをつけるしかありません。

色々あるけれど、選択が大事

これら以外にも、外気を潤沢に使ったり、ミストを使ったり、自然水を使ったり、雪を使ったり、コンテナにしてみたり、「そもそも冷やさなくてもいいんじゃね?」と逆転の発想をしてみたりなどなど、さまざまな空調方式があります。

とはいえ、これらの方式は、一からデータセンタを作れるだけの規模を持ったIT企業や、自社サービス用に同じスペック/大きさのサーバを大量に設置するWebサービス/クラウドの企業がやる事です。ラック貸しが精一杯で、さまざまな形の機器が設置される可能性のある勤め先だと、これらの方式はなかなか手が出せません。今の設備をいかに効率化していくかという観点で考えると、ホットアイルチャンバーが一番いいかなと思います。